大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(行ツ)22号 判決 1974年5月30日

東京都八王子市八日町六番七号

旧商号株式会社まるき百貨店

上告人

株式会社まるき

右代表者代表取締役

落合稔

右訴訟代理人弁護士

横山唯志

東京都八王子市子安町四丁目四番九号

被上告人

八王子税務署長

大井正美

右当事者間の東京高等裁判所昭和四三年(行コ)第一八号不当課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四四年一月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人横山唯志の上告理由について。

昭和四〇年法律第三四号による改正前の旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)(以下、「旧法」という。)一三条一項二号は、法人が合併した場合の清算所得中には、合併の場合に合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税額、その法人税額に係る道府県民税額及び市町村民税額並びに清算所得に対する事業税額に相当する金額を含む趣旨を定めたものと解すべきであり、このように解されるかぎり、昭和四〇年政令第九七号による改正前の旧法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号)(以下、「旧規則」という。)二三条の一一は、旧法一三条一項二号の法意をなんら逸脱するものではなく、同条項の趣旨をうけてこれを具体化し、細目を示したものというのが相当であり、また、所論の通達も、旧法並びに旧規則の右各条項の趣旨に依拠する計算方式を定めたもので、なんら右各条項の定める事項の範囲を逸脱するものではなく、したがつて、旧規則二三条の一一及び右通達が租税法律主義に違反する旨の主張は採用するに由ないものであるとする原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の各判断は、いずれも正当として首肯することができる。そして、右のような見解のもとに、原判決がその適法に確定した事実関係に照らして本件更正処分を適法とした判断もまた、是認するに足りる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立ち、独自の計算に基づく金額を主張して原判決を非難するにすぎないものであつて、すべて採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

(昭和四四年(行ツ)第二二号 上告人 株式会社まるき)

上告代理人横山唯志の上告理由

原判決には、次のような判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈を誤つた違法がある。

第一、法人が合併した場合の清算所得には、みなし交付金((旧法人税法施行規則(以下単に規則という)二三条の一一に規定する法人税額等に相当する金額))は含まれない。

一、原判決の引用した第一審判決は、法人合併の場合と法人解散の場合とを比較し、「合併の場合には清算中の所得なるものが発生する余地はなく、また被合併法人の資産も直接時価に換価されずに合併による交付株式等の払込価額及び合併交付金の総額として現わされる点に違いはあるが」としながらも「いずれも課税されるべき清算所得の本質においてなんらの差異も認められず、また被合併法人の株主等が合併法人から現実に交付を受ける株式等及び金額は、解散の場合の清算分配金に相当するものということができる。そうであるならば、合併の場合における交付株式等及び金銭の総額は解散の場合の残与財産の価額と清算所得の計算上その範囲を同じくすると解するのが合理的であり、解散による清算所得金額に清算所得に対する法人税額等が含まれる以上、合併の場合についてもその理は同様でなければならない。」と解している。

二、しかしながら、法人が合併する場合は、それが新設合併であろうと吸収合併であろうと、合併法人として将来に亘つて社会的機能を営むものである。

従つて、法人が消滅する解散の場合と同様に立つて考えることに既に誤りがある。

第一審判決も指摘しているように「被合併法人の資産は直接時価に換価されず」に、合併法人に承継されるものであつて、法人解散の場合のように清算結了までに清算を迫られるものではない。従つて、合併法人の場合には、承継された資産等については、事業年度の所得と共にそれに対し法人税等を課せば充分である。

そこにまず、合併と解散の場合の本質的な差異がある。

三、そこで、旧法人税法(以下単に法という)一三条は、清算所得について

(一) 法人が解散した場合には、一項一号において

「その残余財産の価額が、解散当時の資本又は出資の金額、資本積立金額及び再評価積立金額の合計額をこえる場合のそのこえる金額」と定して、資産の総決算が必要であることを前提としているのに対し

(二) 法人が合併した場合には、単に、同項二号において

「合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に達し交付する株式又は出資の価額の総額及び金銭の総額の合計額が、被合併法人の合併当時の資本又は出資の金額をこえる場合のそのこえる金額のうち、被合併法人の合併当時の資本積立金額及び再評価積立金額」と規定し、更に、二項において「被合併法人の株主、社員又は出資者が合併法人から合併に因り取得する株式又は出資価額は、同項(第一項)の規定の適用については、当該株式の額面金額又は当該出資の金額による。」とわざわざ注釈的な規定を設けているのである。

(三) すなわち、一項二号において「被合併法人の合併当時の資本又は出資の金額」と規定したのは、その文言から、当然に当該株式の額面金額又は当該出資の金額を意味するものと解せられるので、清算所得は合併法人の株式等も被合併法人の株式等も、いずれも額面金額によるものであることは明らかである。

(四) そこで、本件の場合にこれを適用すると、合併法人である株式会社、まるき百貨店が合併により交付する株式の合計額は、一、六〇〇万円であり、被合併法人である株式会社丸木商店の払込済資本金は八〇〇万円であるところ、同商店には合併当時資本積立金及び再評価積立金はないので、清算所得は八〇〇万円となる。

四、ところで、問題となるのは、みなし交付金が、原判決の判断するように、合併法人が被合併法人の株主等に交付する「金銭の総額」に含まれると解することが、合理的であるか否かである。

(一) 原判決は、法一三条一項二号に定める「合併法人が被合併法人の株主に対し交付する金銭の総額」に清算所得に対する法人税等は、清算所得の計算上、現実の交付金と並んで含まれると解することは、事柄の実質に則した合理的な解釈である旨の判断をしているけれども、二号の規定の「交付する」という文意からは、被合併法人の株主が積極的に享受する利益を所得として規定しているものと解せられ、単に、消極的に支出を免がれたもの(みなし交付金)までも所得として規定したものと解することは困難である。

このことは、現行の法人税法(昭和四二年六月一日施行)が、特に一一二条一項一号において、被合併法人の株主等が合併法人から交付を受ける株式等の価額並びに当該交付を受ける金銭を規定し、別に一一三条一号ないし三号において、みなし交付金に関する規定を設けていることからも窺われるものである。

(二) 法人の合併の場合には、法人の解散の場合と異り、みなし交付金を清算所得とするには、原判決が説明するような解釈を必要とし、当然にみなし交付金が清算所得に含まれると明文はない。原判決の認定は、第一三条の規定からは直接に導かれないものである。

特に、一三条が清算所得について、法人の解散の場合と法人の合併の場合とを明らかに区別していることに留意しなければならないし、このように明確に区別されている場合には、一方の規定をもつて他方を類推解釈するというようなことは許さるべきではないと考える。

(三) 国民に対し租税を課するには、その範囲を解釈によつて補うというようなあいまいなものではなく、国民に大きな負担を課するわけであるから、納税義務者である国民が容易に理解できるような明確なものでなければならないし、又それが憲法に規定する租税法律主義のあるべき姿でもある。

以上の諸点について、原判決には法律の解釈を誤つた違法がある。

第二、規則二三条の一一及び国税庁通達昭和二八年一〇月三一日直法一-一一九の四七(以下単に通達という)の定める計算式は法律の委任を受けない違法なものである。

従つて、憲法に規定する租税法律主義に反する無効なものである。

一、まず規則二三条の一一について、原判決は、みなし交付金は、合併法人が被合併法人の株主等に対し交付する金額の総額に含まれるものであり、二三条の一一がこれらの税額相当額を合併交付金とみなして清算所得を計算する旨を定めたのは、このことを明らかにしたものに過ぎないと解するのが相当であるとしている。

しかしながら、みなし交付金を清算所得とすることは、前記のように、法一三条一項二号からは当然には導かれない結論である。にもかかわらず、規則二三条の一一は「法人が合併した場合において、合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税は、これを合併法人が、被合併法人の株主、社員又は出資者に対し、合併に因り交付する金銭(以下みなし交付金という)とみなして被合併法人の清算所得金額を計上する」旨を規定している。

若し、法がみなし交付金を清算所得とするならば、法にこれを規定すればよいし、技術的にもなんら困難はない。

このことは、現行法人税法が前記のように一一二条を区別して規定したことによつても肯定されるところである。

そして、又租税法律主義の原則からも、これを法に規定する必要がある。

ところが、法においては、これを明らかに規定していないのに、規則二三条の一一は突然みなし交付金として清算所得に計上する旨を規定している。これは、明らかに法の規定する領域を単なる規則が規定したことになる。

そして、この規則の法の専権事項をなんらの委任もなく規定したものである。法一三条五項は「第九条八項の規定は第一項の清算所得の計算について、これを準用する」と規定しているが右規定は、単に清算所得の計算方法に関する事項についてのみ委任しているものであつて、清算所得の範囲までも規則で規定することを委任したものと解すべきではない。

この意味で、規則二三条の一一は、法律の委任を受けないで、法律をもつて定めるべき課税の対象を規定したという結果となり、憲法に規定する租税法律主義の原則に反する無効なものである。

二、次に、通達も法律、命令、規則に基づかない違法なものである。

法一三条一項二号は合併法人が納付する被合併法人の清算所得の範囲について規定し、規則二三条の一一は、みなし交付金を清算所得に計上することは規定しているが、通達によつて計算することまでも委任したり、規定していない。

そして、これが単に計算の方式を規定するに止まらず、法が規定している清算所得の範囲を濫りに拡張する結果となつている。通達の「当該みなし交付金と清算所得に対する法人税等とは相互に循環的に増加する関係にあるから」との考え方は、規則二三条の一一によつても導かれない全く恣意的なものである。

そして、この通達は前記のように法律等の委任を受けない単なる税務官署内部における一種の執務規範に過ぎないものであつて、いわゆる法令ではない。

この通達の性質については、行政官庁の内部的なものであつて、法規としての形式的効力は与えられていないとの見解が一般的であつて疑問の余地はない。

三、そこで、規則であれ、通達であれ、それが、たとえ被控訴人主張のように「税法には技術的性格があり具体的な課税に必要な所得の計算方法について細部にわたつて法律自体で詳細な規定を設けることが困難な場合がある」としても、本件で問題とされている規則二三条の一一にしても、又通達にしても僅かの条文をもつて規定し得ているものであるから、法律又は命令に規定するについては現実にはなんの困難もないことである。

従つて、課税の対象又は計算の方法等による税の具体的実現(金額の確定)はすべて法律としての形式的効力を与えられた法規に基づかなければならないというのが上告人の見解である。

第三、上告人のした昭和三七年八月三〇日の合併による清算所得の確定申告に対し、被控訴人が昭和四〇年四月八日付でした更正処分は法人税法の解釈適用を誤つた結果によるものであつて不当である。

その詳細は前記のとおりであるが、

一、上告人の計算によれば、上告人の負担する税額は三、二八八、七九〇円となる。

二、そして、仮りに規則二三条の一一が適法であるとしても、右税額をみなし交付金として税額と計算すると次のようになる。

(1) 659,800×20%=131,960円 法人税

7,340,200×43%3,156,286円 〃

(2) 3,288,200×43%=1,413,926 〃

(3) 8,000,000×12%=960,000円 事業税

(4) 3,288,200×13.5%=443,907円 都市民税

計 6,106,079円

従って、規則までを、そのまま適用すれば、上告人の納付すべき税額は、六、一〇六、〇七九円となつて、八〇〇万円の清算所得の範囲内の税額である。

三、そこで通達のような計算方式を用いないで、みなし交付金を零に近くなるまで計算してみると、すなわち、算出された税額に四三パーセントを乗じて、みなし交付金零になるまでの、みなし交付金に対する税額の合計額は、

法人税 二、四八〇、〇六八円

事業税 一、〇九〇、八七二円

都市民税 五一三、一三四円}合計 四、〇八四、〇七四円

となり、これに、本来の法人税三、二二八、二〇〇円を加えても、七、三一二、二七四円となつて、やはり八〇〇万円の清算所得の範囲内である。

四、 これらの計算例と比較してみると、被上告人のした課税処分決定は不当なものと思わざるを得ない。

以上の理由から、原判決は破棄されなければならない。

以上

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